カズオ・イシグロの『日の名残り』
映画『日の名残り』(原題:Remains of the day 公開1993年)をあらためて観た。
昔ビデオで見ていてイギリスのいい感じの作品と思ってた。その前に『羊たちの沈黙』でアンソニー・ホプキンスって凄い俳優だな、って思って同じく主演しているこの『日の名残り』を見たのだった。しかし原作のカズオ・イシグロには気づかずだった。なので2017年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロが『日の名残り』の原作者と知りびっくり!そして小説も英語圏の最高の評価と言われるブッカー賞を受賞した作品とのことだ。改めて見ると見るものをどんどん引き込んでいく凄い作品だった。アンソニー・ホプキンスの完璧とも思える演技と助演のエマ・トンプソンも素晴らしいことを発見した。またロケ−ションも良くイギリスの田園風景や英国西海岸の夕景などが素晴らしい。戦時中の話しなので出てくる自動車のヴィンテージな良さも味わえる。
物語は貴族のダーリントン邸に執事として仕えるスティーヴンスが回想しながらそのダーリントン邸での様々な出来事が描かれていく。クールに仕事のプロに徹するスティーヴンスと一緒に働く女性ケントンの情緒をストレートに出す性格の対比が見事。しかしお互いに惹かれ合っていた。また戦時中の話しから主人のダーリントン卿が政治的にナチスドイツに近づくという重層的な構造の展開に深く導かれていく。監督は1980年代に『眺めのいい部屋』で注目されたジェームス・アイボリーで、なんと『卒業』のマイク・ニコルズがプロデュース。音楽はリチャード・ロビンズでこの音楽もオケ風なオーソドックスながらセンスよくひとつのテーマ(同じアルペジオパターンがリフレインされる)を劇の展開を統一させるように何度も出現させ映像を引き締める。まったく邪魔しない劇伴だ。
アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソンのやりとりをみてるだけでも見応えのあるドラマだ。しかしこの貴族の執事を主人公にするような題材を日系英国人であるカズオ・イシグロが書いていることにも驚く。イギリスの文化に相当な知識を持っているとしか思えない。
アカデミー賞では、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、監督賞、作曲賞、作品賞、脚本賞の8部門にノミネートされた。
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