Bitches Brew




『BITCHES BREW』 MILES DAVIS から51年経った日。

最も好きな音楽のひとつ、マイルス・デイヴィスの『BITCHES BREW』リリースから50年か、
感慨深い!レコーディングは1969年8月19日20日21日(ニューヨーク)なので今日で51年経った。

その数日前にはウッドストック・フェスティバルが開かれている。
ジャズもロックもなんかすげえ動いてた時代。
ベトナム反戦運動あり、若者はエスタブリッシュメントに抵抗する、みたいな時代だった。
日本では安保反対、学生運動、三島由紀夫の自決が1969年11月だった、、、
いやいや激動の時代。

『BITCHES BREW』
高校2年の時、最初に聴いた時はよくわからなかったけど、次第に魅了された。
今聴いてもまだ発見があり奥深い演奏の魅力に満ちている。
JAZZ史上最も革命的なアルバムとも言われている。
いわゆる2−5−1等のコード進行するスタンダード・ジャズのフォーマットじゃないし、
60年代の黄金のクインテット時代のモード・ジャズでもない、
一応モーダルな和声の延長かもかもしれないけど。リズムが凄い。

ドラマーはディジョネットとレニー・ホワイトのツウィンで16ビート系だけど2拍4拍で
スネアを打つ普通のロックにはほぼなっていない。
ジョン・マクラフリンのギターが今聴いても、こう来るか!っていうマニュアルなどない、
その場で反応しただろう独自な演奏している。

テーマモティーフはあるけど、
集団的なインプロヴィゼイションっていう感じで1曲が20分前後と長い。
ウェイン・ショーターはこのアルバムがマイルス・バンド最後。
チック・コリアとジョー・ザヴィヌルのエレピが絶えず動いていて白たまで伴奏することはない。
チックの和声感やフレーズはほんとフシギに満ちてて凄い。
スネアがロックしないことでその分、伴奏陣のリズムが見えやすいし画一的にならない。
その後のビリー・コブハムは手数多いけど好きじゃない、
アル・フォスターのドラムになってからはロックになっちゃって、その分聴きやすいけど、どうかなあ・・
『BITCHES BREW』はそこに隙間があってチックの動きも見えるのが楽しい。

また1974年のマイルス来日時に厚生年金で見たのでわかったが(この時は1曲が50分くらいで、それを2曲やった)、
バンドを指揮するかのごとく合図を送っていたマイルスなので
ここでもモティーフ設定やダイナミクスの指示をしているのだと思う。
和声的に単調になりがちな部分をリフレインしつつも盛り上がるという肉体的なダイナミクスがぐいぐい惹き込んでいく。

曲としては「ファラオズ・ダンス」「ビッチェズ・ブリュー」が素晴らしいが
チックのアイデアと思われる「スパニッシュキー」も決めフレーズに持っていく流れがめちゃかっこいい。
ショーター作曲の「サンクチュアリ」は「ネフェルティティ」の延長上のようで
伴奏陣が即興していてテーマメロディがリフレインされる。
4ビート風だがデイヴ・ホランドは4分音符でウォーキングせず動きまわっている。

ハーベイ・ブルックスがエレベでパターン奏してるときにホランドがアコベースでソロ風に弾いてる、
とか面白い。ベニー・マウピンのバスクラが低音域でソロっていうのではなくブリブリ来るのも
ブラックマジック風なジュジュ風な気分を醸し出す。

情緒的なメロディはほぼ無く、ウェットでセンチなメロディが一番という価値観の
一般的な日本人向きではないでしょうね。
(そうそう逆にJAZZでもマル・ウォルドロンの「レフト・アローン」とか日本では異常に流行ったし)

凄く上手いトランペッターというとクリフォード・ブラウン、リー・モーガン、フレディ・ハバードらがいるが、
マイルスはそういう演奏目線で計測できる狭いミュージシャンではない。
アンサンブルとかグループによるサウンドのことをいつも考えていて若手の起用や時代の先取りという面で天才的。

1960年代末からのロックの隆盛にマイルスはたぶん嫉妬していて、
自分もそれだけの規模で観客動員できる、したいと思ってたんじゃないかと。
それでロックやエレクトリックを導入していくわけだけど、
結果的に全然ロックではないし、スゲエ音楽に行き着いたっていうところ。
勿論いわゆるJAZZっちゅうことでもないのかもしれない。

もうひとつは、
60年代の黄金のクインテット(ショーター、ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズにマイルス)
は黒人だけの編成で、こんな知的な音楽はないんじゃないかというくらい高度な音楽だった。
それがモーダル・ジャズの頂点まで行ってしまって、
マイルスはロックやエレクトリックに次の活路を探したのかな、っていう感じ。
それと黒人だけにとらわれないメンバーキャスティングしている。

試行錯誤のあと名作『IN A SILENT WAY』で白人ピアニスト・コンポーザーの
ジョー・ザヴィヌルの曲を起用、問題提起でありつつひとつの結果を残し、
きっとマイルスは自信を深めたんじゃないかっていう気がする。
黄金のクインテット時代はウェイン・ショーターに任せてたサウンドを
この『BITCHES BREW』では完全に自らイニシアティブとってる気がする。
ショーターのほうはマイルス・バンド辞めてブラジル志向だったりもありつつ
ザヴィヌルとWEATHER REPORTを結成する。

あと1969年というとまだ60年代フリージャズの名残もあって・・
アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、セシル・テイラー等頑張ってたし、
チック・コリアだってReturn to forever結成前はアンソニー・ブラックストンと
ARCっていうアヴァンギャルドやってた・・アブストラクトな価値観が生きている面もある。
その後クロスオーバーとかフュージョンというともっとコマーシャルで聴きやすい音楽、
楽器奏者の上手さ比べみたいな面にすべてではないが、行っちゃうこと思うと、
この『BITCHES BREW』はプレイヤーのテクも凄いけど
それを売り物にした安っぽい商業性のある音楽ではない。

音響面ではスタジオ・ライヴのようなセッティングで演奏したと思われる。
だからダイナミクス上スネアをガンガン叩く感じではなく、
どの奏者も他の奏者の音をちゃんと聴いて反応しているプレイだと思う。
ただ演奏が長いのでプロデューサーのテオ・マセロが編集はしている。

『BITCHES BREW』というタイトル、「ビッチ」なんていう言葉、
当時相当ヤバイのでテオ・マセロはレコード会社上層部にビビりながら
マイルスの新作は「ビ、ビ、ビッチェズ・・」ですけどいいでしょうか?って聞いて、
上層部はマイルスがそう言うならしょうがないんじゃない、っていうことみたい、great !
マイルスが行きつけのバーにあったメニューに
『BITCHES BREW』(あばずれ女のたくらみ)っていうのがあって、
それからとったみたい。よくビールにBREW使うし。
シェークスピアのWITCHES BREWも関係あるのか?ないか?