『MISSISSIPPI BLUES TRAIL』〈ブルース街道を巡る旅〉桑田英彦:著 

これはアメリカ南部ミシシッピデルタ辺りを中心としたブルースの聖地、ブルースランド・・・つまり19世紀末から20世紀初頭に生まれたブルースマンたちの生まれた場所、活動した街、地方などを克明に取材し、丁寧な写真とわかりやすい文章で構成された音楽旅の本である。

めちゃオススメ!

著作者の桑田さんは、なんと僕の作曲理論書CDブック『僕らはROCKで作曲する』の編集者でもある。
昨年、僕の著作の打ち合せの時も桑田さんと会うと、半分以上ロック話とかしていましたっけね。
ギター愛好者でもあり、音楽誌編集者として6年間アメリカ在住、またブルースに精通した彼ならではのお仕事、いい仕事してる!

今年の6月頃一緒に飲んでいたら、この後アメリカに行ってブルース・トレイルを巡って来る、との話をしていたので、早速それが完成したわけだ。いやはや仕事早いっすね。

今回の桑田さんの旅は数年前に国や追加支援の団体がアメリカ音楽文化を残し観光名所としても記念の碑を設置した「ブルース・トレイル」(このプロジェクトはミシシッピ・ブルース・コミッションという)を片っ端から制覇するものだ。ブルースマンゆかりの地にはマーカー(記念碑)が建ち(100以上あるらしい)世界中からブルース巡礼の旅!?・・・ブルースは宗教ではないが、ブルースファンにとっては、それらの場所を巡ることは聖地巡礼のようなものになる。

ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ジョン・リー・フッカー。B.B.キング、アルバート・キング、ハウリン・ウルフ等々きりがないが彼らは皆ミシシッピデルタ出身である。
B.B. キング博物館の近くの草原には「The thrill is here」という大きな看板が立っている。B.B.キングのヒット曲マイナーブルースの「The thrill is gone」をもじったコピーだ。

1930年代のロバート・ジョンソンゆかりの地クラークスデイルはファンでなければ全く知らない地名だが、ここは聖地中の聖地かもしれない。小さな町クラークスデイル郊外の四辻は「クロスロード」としてロバート・ジョンソンが深夜に悪魔と契約したと言われるブルース最大の神話の場所だ。そのエピソードにもふれられている。
ここも旧通りのほうのホンマモンっぽいほうとの比較の写真などでわかりやすく説明されている。

エリック・クラプトンがリメイクした「クロスロード」、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、ピーター・グリーンなどイギリスの白人たちのロックミュージシャンはみなロバート・ジョンソンをリスペクトしている。

ロバート・ジョンソンに関してはクラウド・ジョンソンというトラック運転手をしていた方が、つい最近ロバートの子供ということが認定され、莫大な財産、印税権が入り、また今後も世界中から印税が入り、現在は広大な土地の大邸宅で暮らし、ロバート・ジョンソン博物館を建てたというエピソードも載っている。子供と認定された事実もまたすごい証言が載っている。

小さい頃泥んこ遊びばかりしていて祖母からマディというニックネイムをもらった本名マッキンレイ・モーガンフィールドのマディ・ウォーターズの生まれたのは本人の言うローリング・フォークでなく、アイザッキーナ・カウンティという片田舎の村らしい。生まれた年も3説あったり・・・こんなんがブルースの伝説!
マディの暮らした小屋がそのまま移築されているデルタブルース博物館もクラークスデイルにある。
マディはその後大都会シカゴに出て行き、ロバート・ジョンソンのスタイルをシカゴでエレクトリック・ブルース・スタイルでブレイク、いわゆるシカゴ・ブルースを確立する。
マディはブルース界最大のスターという気がする。ローリング・ストーンズもマディの曲名からバンド名をつけた。これは「キャデラック・ブルース」という映画紹介でもマディには触れた。
最近1970年代のマディのライヴに飛び入りでミック・ジャガー、キース・リチャーズが出演するものがDVD化されリリースされた。狭いライヴハウスなので、テーブルの上を歩いてステージに来るキースがまたロックな、ほんとロックな光景だ!

話戻って、この本。
読んでいてブルースマンたちは皆黒人だし相当な人種差別のなかで生き抜いて音楽で食って行った人たちなおで、きれいごとですまない、ヤバい話、名前変えて稼いだり、有名ミュージシャンの名前をパクったり、酒、女、博打となんでも来い!の人生が詰まってる。聖地っていっても・・・そこが社会の下〜のほうから文化にまでいきつく話だ。


1873年生まれのW.C. ハンディは裕福な育ちの黒人で音楽的な素養もあった。その彼が1903年クラークスデイルでの仕事に向かう途中タトワイラーという駅で見たみすぼらしい黒人のナイフによるスライド奏法でのブルース弾き語りはハンディ曰く「今まで聴いたどの音楽とも違った」ということだ。この記述は日付を確定できる最も古いブルースについての記録、ということになるそうだ。その後ハンディは影響を受け「イエロー・ドッグ・ブルース」を作曲。1912年に発表された「メンフィス・ブルース」は世界最初のブルース曲の出版ということでW.C. ハンディは「ブルースの父」と呼ばれるようになった。『MISSISSIPPI BLUES TRAIL』より。

うむむ〜勉強になってしまいます!!!

とにかく本書は写真が詳しく載っているので、アタマの中でそこに行ってるような、行きたいような、そんな気分になってくる。
ブルースファンでなくてもポップ・ミュージックの元、源流は「BLUES」ということになるので文化的にも価値ある書だと思う。

『MISSISSIPPI BLUES TRAIL』〈ブルース街道を巡る旅〉桑田英彦:著 2012年9月30日初版発行
 発行元:P-Vine Books 発売元:スペースシャワーネットワーク 定価2200円+税
 

旧コラム記事へ>